佐藤暁彦さん/ジャズドラム/シエナジャズサマーコース/イタリア・シエナ

音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。


Image佐藤暁彦さんプロフィール
中学時代に、吹奏楽部のパーカッションでドラムを始める。大学でジャズ研究会に入部し、ジャズドラムを開始。2007年、シエナジャズサマーコースに参加。講習会では、選抜のビックバンドのメンバーに選ばれる。2007年、横浜ジャズプロムナードにコンボバンドで参加。


―  はじめに略歴を教えてください。

佐藤 中学生のとき、ドラムをやりたくて吹奏楽部に入り、高校でも引き続き、吹奏楽部でした。大学でコンボ主体のジャズ研究会に入部して、興味があったジャズをやり始めました。同時にポップスのバンドも結成し、大学卒業後も続けて、インディーズでCDを出したりもしたんです。一方、大学卒業後、ヤマハ音楽院で、ジャズに限らず、ポップス、ロックといろいろ学びました。卒業後は、ポップスの活動がメインだったのですが、だんだん、またジャズを本格的にやりたいなと思うようになって、ジャズクラブやライブハウスに行くようになったんです。

―  今もポップスは演奏されているんですか?

佐藤 頼まれたら演奏しますが、今は本格的にジャズに絞ってやろうと思っています。

―  どこか決まったライブハウスで演奏されているんですか?

佐藤 地元の横浜や横須賀のライブハウスで演奏することが多いですね。横浜はかなりそういうお店が多いんです。

―  講習会に参加したのは何がきっかけですか?

佐藤 演奏の仕事があまりなかった時期に、何かしようと思い立って、以前から覗いていたこちらのサイトでこの講習会に興味を持ったんです。普通、イタリアにジャズしに行くヤツいないだろうと思って(笑)。

―  アメリカとは迷わなかったですか?

佐藤 最初は、アメリカも考えたのですが、日本の人がジャズを勉強しようと思ったら、普通、アメリカに行くじゃないですか。だから、他の人と違うことをやってやろうと(笑)。

―  それでイタリアに?

佐藤 もともとイタリアのジャズに興味は持っていたんです。講習会には、エンリコ・ラバというトランペットの先生もいたんですが、その方はイタリアジャズの中では、世界的に有名な人です。東京のブルー・ノートに来たときに観に行ったのですが、それもこの講習会に参加したきっかけになっています。そのときにイタリアのジャズをおもしろいと感じたんです。アメリカのジャズと比べても、泥くささがないというか…。ヨーロッパのジャズというのは、クラシックの影響が強いとよく言われています。やっぱりイタリアのジャズも、クラシックをジャズに昇華したような感じがしますよね。

Image―  それでは、シエナジャズ講習会の全体の様子を教えてください。

佐藤 今回の講習会はシエナジャズという大きなイベントの一環でした。全体で200人くらいが参加していました。各パート30人くらいですね。楽器の他にも作曲のコースで来ている人が数人いました。

―  レッスンはどのように進められたのですか?

佐藤 最初に選抜試験がありまして、それで2クラスに分かれて、クラス別に1人ずつ先生がつきました。

―  選抜試験というのはどのような試験だったのですか?

佐藤 基礎的なことができるかどうかをみる試験です。1人ずつ呼ばれて、「こんな感じのできる?」「これやってみて」という感じで行われました。

―  レッスンはどんな内容でしたか?

佐藤 ドラムを2つ並べて、2人がセッションをするといった内容です。基本的には生徒2人がセッションをしましたが、場合によっては先生が叩くこともありました。例えば「早めのテンポで」とか「こういう拍子で」といったテーマが出されて、それにそって2人がセッションをします。それを先生が聞いていて、指導してくれます。

―  ずっとグループレッスンだったんですか?

佐藤 そうですね。短期間の講習会なのでそういう形なんだと思います。

―  他の生徒の皆さんは上手でしたか?

佐藤 講習会を受けた人の中には、若い人もいたし、これからジャズやりますっていう人もいたんですが、ラッキーなことに僕は上級者のクラスに入ることができたので、皆さん、上手でしたね。音楽のレベルはとても高かったです。

―  講習会のスケジュールを教えてください。

佐藤 朝の9時から始まって、夕方の5時までのスケジュールですが、だいたい5時半くらいまででした。間に1時間くらいお昼の休憩がある程度で、あとはずっと講習です。実技のレッスンだけでなく講義もあったのですが、それも含めて本当にみっちりでした(笑)。

―  講義はどんな授業でしたか?

佐藤 音楽理論と聴音(ヒアリング)、ジャズの歴史、それから楽曲分析の授業がありました。理論の授業では、コードや音階のことを学びます。ドラムでもそういうことは知っておいた方がいいので、ためになりました。楽曲分析ではある曲を聞いて、その曲の構成、リズム、進行がどういうものかを分析していきます。

―  何語でやりとりされているんですか?

佐藤 基本的にはイタリア語ですが、実技のレッスンのときは僕が分からないと、先生が英語で言い直してくれました。理論の授業のときは、いちいち先生が言い直していると時間がかかってしまうので、英語が堪能な生徒さんを紹介してくれて、その人が英語で教えてくれました。僕はそんなに理論は詳しくないのですが、自分の持っている音楽のボキャボラリーで考えていけば、理解することができました。

―  参加を決めてから、事前に語学の勉強はされたんですか?

佐藤 英語はもちろん、イタリア語も音楽用語などはそれなりに勉強していきました。結果的にそれはすごく役に立ちました。おもしろいもので、耳が慣れてくると、音楽用語であれば、イタリア語でも大まかにわかるようになってくるんです。

―  すると、言葉にはほとんど困らなかったですか?

佐藤 いや、困りましたね(笑)。勉強もしていたし、なんとかなるだろうと思っていたんですが、いざとなると、緊張してしまって聞き取れないこともありました。指示を間違えて受け止めて演奏してしまったこともありました。それから、受け身の姿勢ではなくて、「こう表現したいんだけどどう演奏したらいいのか」とか、もっとこちら側からアプローチできる語学力があればよかったなと思いました。

―  では自分から質問されることはあまりなかったのですか?

佐藤 そうですね。そこが悔やまれますね。あとから冷静になれば、英語でこう言えばよかったな、とは思うのですが、なかなかその場では言葉が出てこなかったです(笑)。

―  日本人は参加していましたか?

佐藤 いえ、僕1人でした。ほとんどがイタリア人で、あとは何人か他のヨーロッパの国から来ていました。ある程度予想はしていたのですが、まさか本当に一人とは…(笑)。そういう意味では、すごく目立ちましたね。最初の説明会に行ったときも、視線を感じました(笑)。

―  講習会中は、個人練習はどのくらいされたのですか?

佐藤 実質、やる時間がなかったですね。ファイナルコンサートというのがあって、選抜のメンバーでビックバンドを結成したのですが、そのメンバーに選ばれたんです。それで、その練習が講習のあと、夜の7時くらいまであって、個人の練習をする時間はなかなか取れませんでした。

―  選抜メンバーに選ばれたんですね。すごいですね。

佐藤 クラス分けの選抜試験のときに同時に見ていたらしく、ラッキーなことに先生が推薦してくれたようです。

Image―  選抜メンバーとの練習はどうでしたか?

佐藤 最初の練習のときに1人ずつソロを回していって、最後に僕もドラムソロをしたんですが、ソロが終わったあとにみんなが「お前、いいじゃん」って拍手してくれたんです。それですごく楽になりましたね。これなら楽しくやっていけそうだなと思いました。

―  そのバンドの練習も事前に個人練習はしなかったんですか?

佐藤 そうですね。譜面だけ見ておいて、あとは全体の練習のときにその場で演奏しました。ただ、昼休みを削って(笑)、生徒同士で他の楽器と組んでセッションしていました。

―  セッションをする部屋は用意されていたのですか?

佐藤 昼休みなので、開いている部屋を使いました。あとは、もともと使われていない部屋も事前に予約すれば使うことができました。

―  イタリアの事務局はどうでしたか?

佐藤 中には適当な人もいましたが(笑)、けっこう親切にしてもらったと思います。根本的なシステムが日本と違うので、戸惑うことも多かったんですが、優しく教えてくれました。

―  宿泊先はどうでしたか?

佐藤 シエナにある大学の寮に泊まりました。二人部屋でした。講習会に参加した人は、けっこうバラバラに振り分けられていたようで、大学の寮に限らず、中にはホテルの人もいました。

―  宿泊先と講習会の会場は近かったのですか?

佐藤 僕の宿泊先はけっこう距離があって、歩くと40分くらいかかるところでした。朝はバスがあるので利用していました。

―  帰りは歩いていたのですか?

佐藤 シエナジャズという大きなイベントなので、講習会の会場や特設ステージで、インストラクターの方やイタリアのプロミュージシャンたちがライブをしているんです。練習後にそれを見ていると、帰りが12時半位になってしまうんです(笑)。もちろん、バスは終わっているので、帰りは、歩いて帰っていました。せっかくなので、ライブも観ておきたかったんです。

―  治安はどうでしたか?

佐藤 よかったですね。周囲でも危険な目に遭ったというような話は聞きませんでした。宿泊先までも離れていたので人通りの少ないところもあったんですが、危険そうな感じはありませんでした。小さい街なので、治安はよいと思います。

―  食事はどうされていたのですか?

佐藤 お昼は近くにあったバールでパニーニをつまんで、夜はピザ屋さんで食べる、ということが多かったです。食事はどこのお店もおいしかったですね。

―  海外の人たちとうまくつきあうコツはありますか?

佐藤 イエス・ノーをはっきり言うことですかね。はじめのうちは日本人的な曖昧な返答をしていたのですが、それで相手を怒らせてしまいました。年下の16歳くらいの子に「日本人にはノーという言葉がないのか!」って言われました(笑)。向こうの人たちは、はっきりしていますね。でも、ノーと言っても、失礼にはならないのでイヤならイヤと伝えるのがいいと思います。あとは、こちらから話しかけてコミュニケーションをとっていくのがいいと思います。

―  講習会に参加して良かったと思える瞬間はありましたか?

佐藤 それはやっぱりファイナルコンサートに出られたことですね。シエナにすごく大きな聖堂があるんですが、その前の広場に大きなステージを組んで、そこで演奏したんです。メンバーとは、ずっと一緒に練習していたので、信頼関係ができて、向こうも自分のことを受け入れてくれて、それが伝わってきたんです。そういう瞬間はすごく良かったです。

―  留学して成長したなと感じる部分はありますか?

佐藤 演奏面では、向こうで友達に「もっと楽しもうよ」と言われて、あぁ、楽しむのが大事なんだな、と思いました。その友達は、僕が演奏すると苦しそうに見えるって言うんです。そういえば、日本にいるときから立ち向かうぞという気持ちでいて、楽しむということをあまり意識していなかったことに気づかされました。それから、留学する前はテクニックを身につけたもののどう表現すればいいのか、と行き詰まっていた部分があったのですが、レッスンの中で「どうしたら音楽的な対話ができるのか」という内容も多かったので、とても勉強になりました。「最初にどう表現したいかを考えなさい」と言われたのが印象に残っています。

Image―  音楽以外のところではいかがですか?

佐藤 何でも自分でなんとかしないとどうにもならないんだということを痛感しました。 例えば、講習会中も、若い人でも自分で様々な手配をやっているわけです。日本だと、手取り足取りという感じですよね。

―  そのあたりが日本とイタリアの違いでしょうか?

佐藤 そうですね。自己責任の部分が強いと思います。講習会をどう消化していけばいいのかという基本的な部分ですら教えてくれないんです。本来は講習会の中でいろいろなことが出来るはずなんですが、こちらから聞かないと分からないままです。例えば、資料を借りられるということは、聞いてみてはじめて、出来ると知りました。講習会を最大限に利用しようと思ったら、そういう自ら働きかけていく姿勢が大事になってくると思います。

―  留学前にしっかりと準備したほうがいいことを教えてください。

佐藤 語学です。語学を学んでおけば、理解の仕方がちがってくると思いますよ。確かに言葉がなくても通じ合える部分はあるのですが、やはり講習会なので、深く質問していこうと思ったら、語学を学んで行くことが必要です。

―  今後留学する人にアドバイスをお願いします。

佐藤 シエナに行きたい人は、イタリアに興味がある人だと思うんですが、今の時代、日本でもアメリカでもイタリアでも同じ情報はシェアできますよね。そんな中、どうしてイタリアまで行きたいのかをはっきりさせてから行った方がいいと思います。「どうしてイタリアまで来たの?」とイタリア人に言われるくらいですから(笑)。これは、他の国でもそうだと思うのですが、自分の意思をはっきり伝えれば、向こうも受け入れてくれると思います。

―  最後に今後の活動予定を教えてください。

佐藤 横浜・横須賀のジャズクラブを中心に、複数のグループでライブ活動しています。

―  ビックバンドはもうやらないのですか?

佐藤 機会があれば、今回の経験を活かして、ビックバンドもやってみたいな、と思っています。

―  実現したらぜひ教えてください。楽しみにしています。ありがとうございました。

佐藤さんの近況は以下のホームページで!

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